【書評/Zero to One】論理的に起業する

書評

① この本の著者

この本はPeter ThielというPayPalの共同創業者の一人である。彼がStanford大学で起業に関する授業を教えていた内容を書籍に落としたのが「Zero to One」という本だ。この本は、起業、あるいはベンチャー企業への投資を考えている人に、長期的に成功するビジネスとは何かを図るための一定の物差しを提供してくれる内容になっている。

② 主題

著者が伝えたいことを端的に表せば、0→1が起業(垂直的進歩/テクノロジー)で、1→Nが既存の発明を拡大していくことをGlobalizationと定義し、この0→1の作業時に何がKey to Successになるのかを紐解いていくというものだ。ゼロからイチを作るというのは、例えばタイプライターで文字を印刷していた時代に、ワープロを発明し非連続的な発展を世の中に提供すること。逆に、タイプライターの生産効率を上げ、多くの市民にタイプライターを行き届かせるような企業をイチからNのサービスと定義している。

③ 起業では独占が大事

この本の最大の主張は、起業(あるいは会社がそのビジネスで成功するかどうか)の成功要因で一番大切なのは、独占市場を作れるかどうかだという点である。この世の中のほとんどの企業は行き過ぎた競争環境にさらされている。消費者目線では競争環境があるおかげで、財やサービスの価格が下がるのでありがたいが、企業目線では競争は悪である。本来、CapitalismとCompetitionは相対する概念であり、Capitalismが利益の最大化を狙う概念だとすれば、Competitionは利益を減らすものだ。企業が成功するためには、いかにこの競争(Competition)を避けられるかが大切だという主張だ。著者によれば、まずはニッチな環境から、小さな規模で独占を作り上げることが重要である。ニッチでコアな市場で独占市場を作り、そこから拡大していくのが最も有効な戦略だという。

④ 独占の作り方

独占市場さえ作り上げられれば、その企業は向こう10年存続できるだろう。著者によれば、独占市場の作り方は4つに分類される。1つ目がプロプライエタリ・テクノロジー。これは、簡単に模倣できない比較優位性を指す。2番手よりも10倍優れたサービスを生み出すことが鍵である。2つ目がネットワーク効果。利用者が増えるにつれて、そのサービス自体の価値が上がっていく。例えば、MacBookやiPhoneがこれほど人気なのは、他社のPCやスマホよりも優れたデバイスであることに加え、消費者の口コミや他の人々が持っているという影響も大きい。注意点として、最終的にはネットワーク効果を狙うとしても、まずはニッチな市場に焦点を当てることが重要だ。Facebookも最初は大学のクラスメート同士の身内専用アプリだった。しかし、その狭い界隈でサービスを磨き、外の世界に展開したことで成功した。3つ目が規模の経済、4つ目がブランディングである。規模の経済とブランディングについては特に説明は不要だろう。

⑤ まとめ

ビジネスを成功させるためには、まず独占を勝ち取ること、そして独占を作るためにはニッチな市場から攻め、それを拡大させることが重要だ。ニッチ市場は隠れた機会であり、Uberは車のデッドスペースを有効活用し、Airbnbは空室をサービスに変えた。これまで無駄になっていた資源を新たなビジネスに変えることができたのだ。

と、本の内容をまとめたが、書かれていることの本質は、マイケル・ポーターの戦略論で説かれているものと一致している。MBA(あるいは経済学部・商学部・経営学部)の必修授業で学ぶ内容と重なる部分が多い。今も昔も、結局、他社が簡単に真似できず、消費者や供給者との力関係で優位に立ち、代替品もないような財やサービスを作り出せれば勝てるということだろう。しかし、それが難しい。

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