この本から学んだこと
よく「勝ち組はどうして勝ち組たるに至ったのか」「勝者と敗者を分ける要素は一体何なのか」という点は、シンプルに気になるイシューだと思う。我々は日常的に生きるだけで、必然的に何らかの競争(スポーツ、受験、出世争い)を強いられる。端からそれらの競争に勝つことをあきらめるのはたやすいが、その代償として、かなり生きにくい人生になってしまう気がする。
Xなんかで見かけるのは、弱者男性と謳ったり、スポーツ経験や受験で勝ち残れなかった人を揶揄するようなものも目立ってきた。では、勝者と敗者を分ける要素は遺伝の影響が大きいのだろうか?それとも本人の努力によるところが大きいのだろうか?
例えば、本田圭佑がサッカーの日本代表まで上り詰められたのは、本人の努力だけと言い切れるのだろうか。本田選手は大叔父に元オリンピック選手がいるようだが、フィジカル要素の遺伝が彼の選手としての成功にどこまで起因しているだろうか。フィジカルだけでなく、アスリートに必要なある種の闘争心や努力を惜しまないモチベーションなど、性格の部分も遺伝によって影響を及ぼしているのだろうか。
もし、勝利を手繰り寄せる可能性が高い要素がわかれば、自分が競争に勝っていけるように、有利に局面を進められるのではないだろうか。
ビジネスの世界では、ファミリービジネスの会社が何代にもわたって同じ一族でうまく経営を持続している会社もあれば、「二代目はぼんくら…」なんてケースもよく耳にするだろう。
この本では、何が成功と失敗を分ける要素なのか、そして“勝つこと”が我々にどのような影響を及ぼすのかが述べられている。本ではそれをWinner Effect=勝利者効果と呼び、何かに勝利することが心身に与える効果と、その影響(ポジティブな面だけではない)について深く掘り下げている。
最近は筋トレブームや男磨きブームも相まって、一般にもテストステロンやドーパミンの効果が知られてきている。本書はそれらホルモンにも深く言及しているので、男子ならぜひ読んでもらいたい本である。
勝利が脳や行動に与える影響について
勝利者効果について本書では、いわゆる「勝ち癖」が脳の神経科学的な変化と深く結びついていることが説明されている。具体的には、勝利を収めると、脳内でテストステロンやドーパミンといったホルモンのレベルが上昇し、自信が高まり、次の挑戦での成功確率が高まるという現象が発生するとのこと。これにより、勝利者はさらなる勝利を求める傾向が強まり、努力や成功への執着心が増すのだそうだ。
さらに、この効果は社会的な地位やパワーにも関連しており、繰り返し勝利を収めることで、社会的な評価や影響力が強化される。そのため、勝利者効果は個人の内面的な変化にとどまらず、外部からの評価や社会的地位の向上にも寄与するということらしい。
重要なのは、この勝利が必ずしも大きな勝負である必要はないという点である。小さなタスクであっても、それをやり切り、勝利を収めたと脳が認識できれば、同様の効果を得ることができる。日常的に誰かと競争する必要はなく、例えば、起きたらすぐにベッドメイキングをするという目標を設定し、それを実行するだけでも、脳は勝利の感覚を味わうことができる。
つまり、大きな勝負に勝つためには、まずは日常的に遭遇する難易度の低い目標(試合)を設定し、それに勝つことで、勝ち癖をつけることが重要である。脳内に勝利による効果を与え、来る大きな決戦に向けて良い状態で挑めるようにしていくことが大事だと考える。
ドーパミンの役割について
ドーパミンによって努力のインセンティブを得ることができ、次の勝負に関しても勝つための労力をいとわない。つまり、勝利が次の勝利を導く最大の要因になる。“勝ち癖”が次の勝利にも大きな影響をもたらすというのが本書でもっとも強調されている点だと思う。逆に言えば、このドーパミンが得られなければ、勝利のための努力を継続することが難しくなり、勝負に勝つことも難しくなってしまう。
また、勝利によって分泌されるドーパミンは、テストステロンの分泌をも促進する。テストステロンの増加は、自信とリーダーシップの感覚を強化し、さらなる勝利を目指す行動を促進する。このように、勝利を重ねることでドーパミンとテストステロンが相互に作用し、成功への原動力を生み出している。
皮肉なことに、勝利するためには、まずは勝利することが大事であるということらしい。最近はネットの普及によって、人間が簡単にドーパミンを得やすくなっており、それが脳に悪影響を与えているという記事を見かけたりする。それらを防ぐために禁欲を啓蒙しているメンズコーチもYouTubeで見かけた。簡易的に分泌されるドーパミンと、勝負に勝利することによって得られるドーパミンが及ぼすWinner Effectの違いは述べられていなかったが、気になるところである。
勝利が積み重なることで生じるリスク
勝利が積み重なることで、さらに次の勝負や勝利を求めるようになる。しかし、この過程にはリスクが伴う。例えば、権力者が勝利に酔い、自信過剰になり、必要以上に攻撃的な行動をとる可能性がある。これは勝利によって分泌されるドーパミンやテストステロンの影響であり、勝利者効果の副作用である。
また、このような状態では、リーダーがチームを理想的に指導することが難しくなる。現代における理想的なリーダーシップとは、心理的安全性(昨今の必要とされるリーダーシップについては過去に記事を書いているのでご参考までに)を確保し、多様性を活かしてチームを効果的に運営することにある。しかし、勝利者効果によって分泌されるドーパミンやテストステロンは、この健全なリーダーシップを阻害する可能性がある。これにより、チームのパフォーマンスや成果が悪影響を受けることが懸念される。
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